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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)1734号 判決

原告 加賀美重雄 外一名

被告 神谷国繁

主文

被告は原告等各自に対し金七万円及びこれに対する昭和二十八年十月二十六日より完済迄年五分の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告等において金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人等は、主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、「原告等は、組合契約により白珠(又は白玉)商事不動産部なる名称を用いて宅地建物取引業を営む者であるが、被告の依頼に基き原告の媒介により昭和二十八年三月二十五日被告所有の東京都渋谷区景丘町四十九番地宅地百三十五坪のうち七十坪について被告と訴外山中やすとの間に代金を一坪当り金二万円、合計金百四十万円と定める売買契約が成立した。宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)第十七条第一項の規定に基く東京都知事の告示(昭和二十八年十月一日施行)によれば、東京都内における宅地建物業者がその取引に関して受けることのできる報酬の額は、取引額が金二百万円以下の場合には当事者双方より取引額の百分の五と定められている。よつて原告等は被告に対し前記売買代金額金百四十万円の百分の五に相当する金七万円の報酬及びこれに対する昭和二十八年十月二十六日(原告等より被告に対する右報酬金の支払を請求する書留内容証明郵便が被告に到達した同年同月十三日以後の日)より完済迄民法所定の年五分の遅延損害金の支払を請求する。」と主張し、

被告の主張に対し、「被告主張事実はすべて否認する。被告と訴外山中やすとの売買契約が成立した当時における白玉商事不動産部の経営者は原告等両名であり、その後昭和二十八年六月十日に至つてその経営者が訴外肥沼英子に変つたのである。」と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「原告主張事実中、被告が原告主張の日時白玉商事不動産部なる名称で宅地建物取引業を営んでいた者(原告等ではなく、訴外肥沼英子である。)に被告所有にかかる原告主張の宅地七十坪の売買契約の媒介を依頼し、その媒介により原告主張のとおり売買契約が成立したこと、原告主張の如き東京都知事の告示が施行されていること及び原告主張の書留内容証明郵便が被告に到達したことは認めるが、その余の事実は争う。白玉商事不動産部の経営者は、前述のとおり被告と訴外山中やすとの間に土地売買契約が締結された当時以来引き続き訴外肥沼英子であるから、原告等は被告に対して右売買契約の媒介を理由にその報酬を請求する権利を有しないものである。仮に原告等が当時白玉商事不動産部の経営者であつたとしても、被告は同不動産部に売買契約の媒介を依頼するに当りその売買代金を最低一坪当り金二万円と指定し、それ以上の価額で売買契約が成立した場合にのみ超過分を報酬として右不動産部において収得し得る旨特約したものである。ところで被告と訴外山中やすとの間に成立した宅地の売買契約における代金は、原告等自らも主張するとおり一坪当り金二万円であつたのであるから、前記特約に基いて被告は原告等に対し右売買契約の媒介に関して何等報酬を支払う必要はない。いずれにせよ原告等の請求は失当である。」と述べた。〈立証省略〉

理由

一、白玉商事不動産部なる名称を用いて宅地建物取引業を営む者(その何人であるかはしばらく別とする。)の媒介により昭和二十八年三月二十五日被告と訴外山中やすとの間に被告所有の東京都渋谷区景丘町四十九番地宅地百三十五坪のうち七十坪について代金を一坪当り金二万円、合計金百四十万円と定める売買契約が成立したことは、当事者間に争がない。そこで当時白玉商事不動産部の経営者が誰であつたかについて調べてみるに、成立に争のない甲第四号証によると原告加賀美重雄を代表者として白珠商事なる名義で昭和二十七年十二月二十五日から昭和二十八年六月十五日まで宅地建物取引業を営むについての登録がなされていたことが、成立に争のない乙第一号証によると訴外肥沼英子が昭和二十八年六月二十日白玉商事不動産なる名称で宅地建物取引業を営むについての登録を受けたことが認められ、敍上各事実に原告等各本人尋問の結果及び本件弁論の全趣旨を綜合すると、原告等は原告加賀美重雄を代表者とする前掲登録を受けて白珠(又は白玉)商事不動産なる名称を用いて上記登録期間中共同で宅地建物取引業を営んでいたことが認められる。被告は、白玉商事不動産部なる名称による宅地建物取引業は前述した被告と訴外山中やすとの宅地売買契約成立当時においては訴外肥沼英子経営にかかるものであつた旨主張するが、この事実を認めて右認定を覆すに足りる証拠はない。してみれば前示宅地売買契約は原告等の媒介により成立したものと解するのが相当である。

二、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買を媒介した場合においてその依頼者から一般に報酬を受け得ることは当然である。被告は、前記宅地売買契約の媒介を被告において原告等に依頼するにあたり、売買代金を最低一坪当り金二万円、合計金百四十万円と指定し、それ以上の価額で売買契約が成立した場合にのみその超過分を原告等において報酬として収受し得ることを特約した旨主張するが、このような事実を認め得る証拠は全くない。ところで宅地建物取引業法第十七条によれば、宅地建物取引業者がその取引に関して受けることのできる報酬の額は都道府県知事の定めるところによるべく、その額をこえて報酬の授受は禁ぜられている。本件において原告等は右法律の規定による東京都知事の告示(昭和二十八年十月一日施行)において、取引額が金二百万円以下の場合には宅地建物取引業者は当事者双方より取引額の百分の五の報酬を受けることができる旨定められているところに基いて、被告に対して金七万円の報酬の支払を請求しているのであるが、原告等の媒介により被告と訴外山中やすとの間に宅地売買契約が締結されたのは上述のとおり昭和二十八年三月二十五日のことに属し、前掲東京都知事の告示はその後昭和二十八年十月一日より施行されたのであるから、原告等の被告に請求し得べき報酬の額を直ちに右告示の定めるところに従つて算定することはできないものといわなければならない。しかしながら宅地建物取引業を営む原告等はその営業の範囲内においてした前記宅地売買契約の媒介について被告に対し商法第五百十二条の規定により相当の報酬を請求し得べきものであるので、以下においてその報酬の相当額がいくらであるかについて考えることとする。成立に争のない甲第一号証及び乙第二号証並びに証人山中やすの証言及び原告等各本人尋問の結果を綜合すると、被告は、訴外山中やすと前述のように宅地七十坪の売買契約を締結するより前昭和二十八年三月十四日原告等の媒介により訴外山中やすと右宅地と同番地の被告所有にかかる宅地六十五坪(百三十五坪の一部)について売買契約を締結したところ、その後間もなく前示宅地七十坪を他に売却しその地上に存する被告所有の住宅を先に訴外山中やすに売り渡した前示宅地六十五坪の上に移転しようとして訴外山中やすとの前記売買契約の合意解除を申込んだこと、これに対し訴外山中やすは被告の右申込を承諾する代りに被告が他に売却しようとする前記宅地七十坪を同訴外人に売り渡すべき旨申込み、原告加賀美重雄を交えて三者協議の上既述のとおり原告等の媒介により(実際その衝に当つたのは原告加賀美重雄である。)被告と訴外山中やすとの間に前記宅地七十坪の売買契約が成立するに至つたこと、前記宅地六十五坪の売買契約の媒介に関して被告は原告等に対して一坪当り金千円の報酬を支払う約定であつたが、上述の如く右売買契約を合意解除して新たに宅地七十坪について売買契約を締結した際その媒介に関する原告等の報酬額については原被告間に別に改めて取極めがなされなかつたこと、訴外山中やすは前記宅地七十坪の売買契約の媒介に関し原告等に金七万円(売買代金額の百分の五に相当する。)の報酬を支払つたことを認めることができ、この認定を左右する証拠はない。敍上認定事実にその施行されたのは上述の宅地売買契約成立後のことではあるが、宅地建物取引業者が依頼者より受け得べき報酬の額について既述のような定をした東京都知事の告示が施行されたこと等を彼此勘案するときは、被告が前記宅地七十坪の売買契約に関する原告の媒介について原告等に支払うべき報酬の額は金七万円(前掲東京都知事の告示の所定の基準額にも合致する。)をもつて相当とするものと解すべきである。

三、原告等が被告に対し報酬金七万円について書留内容証明郵便により発した支払の請求が昭和二十八年十月十三日被告に到達したことは、当事者間に争がない。

四、さすれば被告は原告等各自に対し敍上判示にかかる報酬金七万円及びこれに対する前示支払請求の後で原告等の指定する昭和二十八年十月二十六日より完済迄民法所定の年五分の遅延損害金を支払うべき義務があるものというべく、原告の本訴請求は正当であるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原正憲)

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